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2話 水の力

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-04-20 18:59:33

「反応はここら辺……あっ!!」

私は上空から落下しながらモンスターを探していると田んぼの用水路の近くに人と同じくらいの大きさの化け物を見つける。

赤く硬い鎧を纏った両手に大きな鋏を持ったザリガニだ。ただ肥大化したのではない。針のような足を地面に突き刺し二足歩行のフリをしている。

「あ……あ……」

奴の近くで眼鏡をかけた青年が腰を抜かしていて、乗っていたと思われる自転車がザリガニの近くに落ちており真っ二つにされている。

「その人から離れろっ!!」

私は手から圧縮した水をレーザーとして発射する。しかし奴の甲羅は硬く鉄をも貫くレーザーが弾かれてしまう。

「うっ……!!」

一旦レーザーを止める。出力を高めれば貫けるかもしれない。だがもしまた弾き返されてしまったらあの人にレーザーが当たってしまう可能性がある。

(あの人腰を抜かしてるし……助けようにも両手が塞がってたら私がやられちゃうしどうしたら……)

奴と私が互いに睨み合う硬直状態に入る。レーザーがダメなら最悪ステッキで殴ったりも考えたがあの甲羅には通用しないだろう。

「シャインアロー!!」

しかし背後から叫び声と共に光の矢が飛んでくる。それは甲羅を貫通し奴の肩に突き刺さる。

《来たー!! キュアノーブルだ!!》

《美少女王子様は今日も格好いいなぁ……》

《最推しきたぁぁ!!》

彼女が姿を現すと私の方の視聴者がその人、キュアノーブルに釘付けになる。

黄金に輝く髪を後ろで結び、衣装には宝石らしきものがいくつかついている。まるで中世の貴族が本から飛び出してきたみたいだ。

「君はそこの人を安全な場所に!」

「はい!」

光の力で戦う私の先輩キュアヒーローであるキュアノーブル。人気は一番であり私が変身したての頃にも助けてもらっている。

相変わらずのリーダーシップと頼り甲斐のある背中であり、私は指示に従って一般人の青年を避難させるべく肩を貸す。

「動ける?」

「は、はい……すみません……!!」

背中はノーブルに任せて安全な場所まで彼を運ぶ。かなり距離を取った後すぐさまノーブルの元まで戻る。

手伝った方が良いかもと思ったが流石は彼女だ。私が苦戦した相手に汗一つかかずに押している。

「トドメ……」

ノーブルは光を纏わせ鋭さを与えたステッキを振り上げる。しかしその切先は奴に触れる前にピタリと止まる。

「ノーブル……?」

彼女はトドメを刺さず数歩後退する。

《え? え? どうしたの?》

《ノーブルの配信も見てたけど一発も攻撃受けてなかったのに! どうして!?》

コメントをちらりと見た感じみんなも困惑している。一方ノーブルがこちらをチラリと見る。そして複雑そうな表情をしながら私の方へ近づいてくる。

「トドメは君がやってくれるかな?」

「えっ……どうして……?」

「みんなでキュアヒーローだからね。君も経験を積んでおくべきだ。わたしだけが強くなっても仕方ないんだ」

この戦いだけでなくその先も見越している。なんて視野の広い人だ。私も視聴者同様に憧れと尊敬の念を抱く。

そして任された以上、キュアヒーローである以上奴を必ず倒さなくてはいけない。

「はい……!! 任せてください!!」

私はノーブルの横を駆け抜けザリガニのイクテュスと向き合う。

彼女のおかげで弱っているものの奴の甲羅は健在だ。容易には攻撃を通させてはくれないだろう。

(はっそうだ……関節を狙えば……!!)

奴の甲羅はもちろん均一ではなく脆い所もあるだろう。人間でいうところの膝や肘の辺りを観察するが見た感じ脆そうだ。

(動きもさっきより遅くなってる……これなら……!!)

私はマイクを口元に持ってきて必殺技の魔法を唱える準備をする。

「アクアマジックレイン!!」

《来た必殺技!!》

《いけーー!!》

配信の盛り上がりも最高潮になる。私は手を天に向け奴の真上に雲を作り出す。

「はぁっ!!」

そしてそこから魔法の水滴を高速で奴に落とす。速さと魔法を加えた硬さで奴の甲羅を徐々に削っていく。

しかし奴も馬鹿ではない。雨に弱い箇所を当たらないようその場にうずくまる。

(やっぱり関節が弱点なんだ!! なら……!!)

私は雨を出したまま覚悟を決めて前へ踏み出す。そして奴の眼前に立つ直前で雨を消す。

奴の手足を掴み上げて守りを崩し、関節に拳を入れて次々に甲羅を破壊していく。

「最後の一撃いっくよー!!」

希望が集まり、私は右手にその力を一点集中させ水の塊を作りそして左手でノーガードになった胴体を殴る。

「ハイパーアクアレーザー!!」

甲羅のヒビに水を染み込ませ、それを一気に暴発させる。奴の全身から水のレーザーが出てきて甲羅は粉々になる。

「ぐが……ぁ……」

奴は最後に小さな断末魔を上げ全身がボロボロと崩れ灰になっていく。

(また灰に……このせいで調べられないんだよね……)

[倒し終わったな。ノーブルの方も配信を切ったらしいからこっちも切っといたぞ]

[うんありがとう。あとはこっちでなんとかなるから、またイクテュスが現れたらよろしくね]

私はテレパシーを切り、呼吸を整え一安心するのだった。

________________________

キュアヒーローの掟その2

配信は妖精達が全国のスマホ等の機器をハッキングして見れるようにしている。

コメントも打てるよう設定しており効率良く希望をキュアヒーロー達に与えられるようにしている。

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